(1) 補強材の配置範囲
現状では多くの設計者が何の疑いもなく全区間に補強材を配置していますが、想定される不安定化に対し効果的な範囲を詳細検討する必要があります。
のり尻の補強材はすべりに対して効果が薄く配置すると計算上それが過大な安全率の増加として評価され、危険となる場合があります。
配置する場合も計算上の考慮はしない方がよいでしょう。
また土被りの少ないのり肩の補強材もすべりに対しての抑止効果は薄く、過剰な安全率の上昇として表現され
やすいといえます。配置する場合も計算上の考慮はしない方がよいでしょう。(この位置はのり面の中間にある場合などでは上下のすべりを分離する重要なポイントでもあり、この位置での鉄筋の配置そのものを
やめた方が)
また経済性などの理由から、斜面上部などの補強材の配置を省く場合は、上部の斜面の十分な安全性を確保する必要があります。経済性を求めすぎると、すべり深度の薄い斜面下部に補強材が集中するケースが見られます。特に保全対象が斜面の上部にある場合は上を重点として配置すべきであり、そのための理論武装としてもこの検討は役に立つことがあります。
(2) 配置間隔、配置密度
現状では詳細な検討なしで1本/2m2で補強材を配置しているケースもあります。いわゆる「経験的手法」です。これを使って良いと明確に書かれているのは「切土補強土工法設計・施工要領
」であり、これは高速道路のり面でかつ軽微な崩壊のみへの適用が認められているだけです。通常は効果的な配置を目指すべきであります。
切土補強土工法設計・施工要領では、補強材打設間隔は、1.0~1.5mとしていますが、十分な付着のとれる岩などに定着し、のり枠工など比較的中抜けの発生しにくい堅固なのり面工を併用する場合は、2.0mまで飛ばして良いともしています。事実、配置間隔が
とんだために破壊した事例はあまりなく、最近は2.0mまでを上限として検討することが多くなっています。
特に十分な付着のとれる岩などに定着し、のり枠工、コンクリート張工などの堅固なのり面工を併用する場合は、1.0~2.0mの間で経済的な配置を検討する必要があります。不動層として風化岩以上の岩盤やN値の高い硬質な地盤が存在する場合、一般的にはピッチが大きい方が経済的となります。
また実際の検討では枠間隔の他、補強材の削孔径や長さなども経済性の対象となります。主な比較項目は以下の通りです。
主な比較項目 |
○補強材の材料
○補強材の長さ
○補強材の配置(水平打設間隔、1断面当たりの設置段数)
○補強材の削孔径 |
(3) 補強材の打設角度
補強材の打設角度は、基本的には水平面から-10゜~-45゜で設計します。アンカー工と同じです。
理由は注入効率のことを考え、0~-10゜は避けた方がよいからです。しかしもともとトンネルのNATM工法から来ているので0~-10゜や上向きが施工できないと
いうわけではないですが、施工に注意が必要なことは事実です。斜面補強においてあえて計画する必要はないでしょう。
また削孔角度を変えると補強効果が変わるため経済性が変わります。上記の配置と同様に打設傾角での経済比較をすべき、という意見もありますが、自然斜面にも適用し、また表層付近の補強であることから工法の本質としてはのり面に垂直方向の打設で考えたいものですが、それを踏まえて以下の扱いが妥当でしょう。
①施工本数が多く、安定性、経済性を第1に重視した方がよい現場では、すべり面の垂線と補強材のなす角度θ=30゜~40゜を標準とし、地山の土性を考慮し十分な検討を行う。
②施工性を第1に重視した方がよい現場では、のり面に垂直方向の打設角度で設計する。
※のり枠工を反力板として使用する場合は、箱抜きの存在を含め、のり枠工の配筋が可能か否かを考慮する必要がある。 |
(4) 補強材と削孔径
異形棒鋼を用いる場合はD19~D25、削孔径φ65~90mmを標準としています。その他新技術を用いる場合は各技術要領などによっています。補強材の材料に関してはプレストレスもないため、アンカー工ほど厳格に規定されていません。
次に削孔径ですが、設計の段階で注意を要する決定項目です。削孔径を計画する場合、施工できなければ話になりません。
重要ポイントとして、先ず孔壁が自立するか否かが問題となります。自立しない場合はφ90mmが前提となり、自立する場合は削孔方法、削孔長などによって、削孔径が変わります。孔壁が自立し、その他条件でもφ65mmの施工が可能な場合は、市場単価の適用が可能であるため、φ90mmよりもかなり経済的な計画となるケースが多いのです。
一方τ値により経済性が逆になるケースもあります。τ値が小さく、削孔φ65mmが可能であってもその径では周面摩擦抵抗力が足りず、削孔φ90mmとした方が効率的な計画となるケースもあります。この辺のイメージはアンカー工の設計と同じです。
従ってφ65mm、φ90mm両方につき新工法などを含めて検討をするほうが良いでしょう。特に不動層として風化岩やN値の高い硬質な地盤が存在する場合、一般的にはピッチをとばし芯材強度の大きい材料を用いた方が経済的となります。
※現場でのトラブル:市場単価の使用条件に注意
市場単価の適用には適用条件には明確な制限があります。適用条件外の採用をした場合、現場トラブルとなりやすいので注意が必要です!!
(5)補強材長
補強材長さは、施工性と経済性を十分に検討の上決定しなければならない項目です。一般的に、補強材長さは2.0~5.0mとされていますが、削孔可能ならそれ以上の実績もあります。
補強材の長さに上限を設ける工学的な根拠は無いとされており、現実的にはドリルタイプの削孔機で削孔可能な長さが補強材の最大長となっています。そのため削孔方法や材料の強度などを考慮すると2.0m~5.0mで考えるのが一般とされているのです。しかしそれらの基準が書かれたのはもう10年以上前の話であり、最近では高性能ドリフタや長いガイドセルを使うことで近年7m程度の長尺削孔も可能となってきています。新工法などで強度の高い材料を使用する場合などは、特に長尺についても検討する必要があります。
また切土補強土工法設計・施工要領では1断面での補強材長さを変化させないのが一般的であるとしていますが、流れ盤のすべり
やすべり位置が特定されている場合等は補強材長さを変化させる場合があるともしています。これらは高速道路ののり面であり、重要度が高く、施工規模が大きいことが根底となっています。
現場によりすべり面の位置や形状に合わせ、また施工規模や施工性にも配慮し、効率的な長さを決定するのが良いでしょう。
特に1段1段の長さを変える時など根入れ長については詳細な見極めが必要となります。下表は実際の検討例ですが、各補強材の補強強度が鋼材強度(Tsa)で決まっているにもかかわらず、T2paが大きすぎ、不動土塊内の付着長が過大となっています。設計スタンスにもよりますが、計算上の無駄は省けます。このような場合は根入れ長を短くしても計算上の安全性は同一なのです。
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