補強鉄筋工の設計

設計参考図書
 地山補強土工法の設計参考図書としては以下の文献があります。大別して道路系の流れと鉄道系の流れがあります。
 

文献名

発行元

切土補強土工法設計・施工要領 東日本・中日本・西日本高速道路
補強土留め壁設計・施工の手引き 日本鉄道建設公団
地山補強土工法設計・施工マニュアル 地盤工学会

 設計する場合は、先ずその事業の優先文献として何を使うかを協議し、その優先文献に従い設計することになります。ここではよくある流れとしての事例を紹介します。

○土木の道路関連の事業

 土木の道路関連の事業は概ねが「道路土工-切土工・斜面安定工指針」が優先文献となります。この文献では「極限釣り合い法、疑似擁壁工、2ウェッジ法など様々な考え方が提案されてい るが、施工実績の多い高速道路の斜面安定に用いられている極限釣り合い法の1つを参考に示す。」としています。基本は設計者責任で行えとのことですが、ほとんどは「切土補強土工法設計・施工要領」で設計されています。

○土木の砂防関連の事業

 地山補強土工法が多く施工されている急傾斜事業では、「新・斜面崩壊防止工事の設計と実例」が優先文献です。本書では地山補強土工法はロックボルト工として取り扱われているが詳細な設計方法の記載はありません。このため多くのケースで「切土補強土工法設計・施工要領」で設計されています。

○土地改良の道路関連の事業

 「土地改良事業計画設計基準設計(農道)」が優先文献であるが、「道路土工-切土工・斜面安定工指針」に従うこととしています。したがって土地改良の場合もほとんどは「切土補強土工法設計・施工要領」で設計されています。

○鉄道関連の事業

 鉄道事業の場合は「鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物」に準拠し、「補強土留め壁設計・施工の手引き」によります。ただしRRR工法は、「RRR-C工法設計・施工マニュアル」によって設計されます。

 

 以上のように特に公共事業の場合はほとんどが極限釣り合い法である「切土補強土工法設計・施工要領」に沿って設計されています。

 本サイトでは「切土補強土工法設計・施工要領」に沿った形で設計のポイントを説明します。

 

設計の流れ
 地山補強土工の設計というと、専用工法も多く、鉄筋を主体に考えるのか、表面工を主体に考えるのか、わかりにくくなっています。本工法はあくまでも補強鉄筋による工法であり、鉄筋を主体に決め、その後表面工を決定するのが本質です。

 

「切土補強土工法設計・施工要領」の設計法
地盤定数の考え方
 安定度の基本となる地盤定数の決め方を一律的にまとめることは難しく、事実多くの技術者はそれぞれ独自の考え方を持っています。現実的には技術者がその現場について判断することですから、それでいいと思います。しかし現状は近接現場でも全く相異なった考え方がされているケースも見られ、最低限の決め方は必要と思われます。

 その中で最近の動向を見ていると、以下の概念を基本としている技術者が多いようです。滋賀県などの指針にもこれに類した決め方をうまく書いています(http://www.pref.shiga.lg.jp/h/sabo/kyuukeibinran/files/04sekkeihen3.pdf-滋賀県ページに直リンク)。
 

① 近傍に崩壊事例がある場合(第一優先
崩壊事例がある場合は、崩壊時の安全率をFs=0.95~1.00として逆算する。

地盤定数は、近傍に地質的に類似と判断される崩壊事例がある場合は、崩壊時の安全率をFs=0.95~1.00とし、円弧すべり法または、経験的設計法(直線すべり法)により、c、φを逆算して求める。また類似する地形・地質状況での先行工事がある場合の地盤定数は、掘削状況を調査し、その崩壊形態の検討を行い、すべり線を想定して逆算法により求める。

② 近傍に掘削状況がある場合(第二優先
掘削状況から逆算法により求める方法。類似する地形・地質状況での先行工事がある場合のせん断定数は、掘削状況を調査し、その崩壊形態の検討を行い、すべり線を想定して逆算法により求める。

③ 近傍に崩壊事例、先行工事がない場合(第三優先
崩壊事例がない場合は、安定勾配を決定して、安全率をFs=1.20として逆算する。

崩壊事例がない場合は、安定勾配を決定して、このときの安全率をFs=1.20とし、土砂及び風化の著しい軟岩の場合は、円弧すべり法から、その他の軟岩は直線すべり法からc、φを逆算する。
安定勾配は、標準勾配や周囲の地形状況を参考に勾配を決定する。

④ 土質試験などを利用する場合
土質試験などにより地盤定数を設定し、円弧すべり法または、経験的設計法(直線すべり法)により安定度を求める。ただし土質試験結果は地盤中の亀裂などは無考慮のため、土質定数はある程度軽減する必要がある。


 この問題は設計の最も基本の部分であり、地山補強とはまた別次元の話です。現地での今後予想される危険事象を想定して決定する必要があります。

 

安定計算
 安定計算にあたっては原則としてスライス分割法による極限つり合い安定解析法を用い、所用の計画安全率を確保します。

 補強土関連の参考資料、他斜面の安定計算関連の基準書などは、基本的に極限つり合い法を用い、計算手法には「スライス分割法」を用い、安全率は簡便式を用いて計算します。

ここで問題なのは地下水の扱いです。本工法は基本的に地下水がある場合、適用しないか、または適切な排水処理を行うことを前提とすることが多いようです。基本設定としては土中の間隙水圧を考慮しないことを目指すべきでしょう。

 一方で近年ダム水没(SWL)斜面における本工法の計画も耳にします。実際に地下水位が生ずると予想される場合は、上記のように間隙水圧を考慮しないことが基本であるため現場毎に十分な検討と理由づけが必要とされています。

 例えば、残留間隙水圧が作用しないと判断する理由、地下水が出たり入ったりしても、τが変わらないと判断する理由等は最低限必要でしょう。
 

安全率、許容応力度
(1) 補強斜面の計画安全率
 補強斜面の計画安全率については注意を要するところです。切土補強土工法設計・施工要領では永久(長期)Fsp≧1.20、仮設(短期)Fsp≧1.05,1.10と示されています。しかしその説明では、「永久」とは本線などの永久のり面とされています。

 運用上注意しなければならないのは、同要領は日本高速道路株式会社の 要領であり、この記載は高速道路本線を対象としているのです。同社の事業は別として、公共事業に「同要領に書かれているから・・・」といっても的外れな説明となります。あくまでも一般の公共事業などの設計では、各現場での計画機関との確認・協議によって決定すべき事項であるのです。

 ちなみに全国防災協会が行っている災害復旧技術講習では以下の値が参考とされています。また経験上、災害時の計画安全率は同値を使って実施するケースが多いのも事実でしょう。
 

重要な道路、河川、人家等に重大な影響を与える箇所 Fsp≧1.20
主要地方道、一般県道 Fsp≧1.15
市町村道 Fsp≧1.12
応急工事 Fsp≧1.05

(2) 補強材の材質
 補強材はSD345を用いることが基本であり、許容引張応力度は下表がとられています。また仮設の場合の補強材の許容引張応力度は永久の1.5倍が通例です。

補強材の許容引張応力度(N/mm2)
補強材の種類 SD345
許容引張応力度 200(N/mm2)


(3) 極限周面摩擦抵抗と安全率
 よく参考とされる「切土補強土工法設計・施工要領」では、極限周面摩擦抵抗の地盤別の推定値は、「グラウンドアンカー設計・施工基準、同解説」を0.8倍したものとなっています。まずこの意味を理解します。これはアンカー工の極限周面摩擦抵抗が加圧注入した場合の実績値を参考として設定されているのに対して、切土補強土工法ではほとんど無加圧注入されていることによるのです。

 一方極限周面摩擦抵抗の安全率については、アンカー工と比較して設計荷重レベルが小さく、プレストレスとして常時緊張力が作用しないことなどを勘案して永久を2.0(アンカー工の0.8倍)、仮設を1.5(アンカー工と同じ)としています。

 切土補強土工法の新工法では加圧注入が可能な工法もあります。この場合、各メーカーはアンカー工と同じ周面摩擦抵抗値を用いることが可能と考え、加えて安全率は永久で2.0をとることとなるためかなり効率が良くなるとしています。その理由は上記のようであり、合理的な裏付けもあります。極限周面摩擦抵抗値が低い時は新工法を検討することも有効です。

 

補強材の配置計画

(1) 補強材の配置範囲
 現状では多くの設計者が何の疑いもなく全区間に補強材を配置していますが、想定される不安定化に対し効果的な範囲を詳細検討する必要があります。

 のり尻の補強材はすべりに対して効果が薄く配置すると計算上それが過大な安全率の増加として評価され、危険となる場合があります。 配置する場合も計算上の考慮はしない方がよいでしょう。

 また土被りの少ないのり肩の補強材もすべりに対しての抑止効果は薄く、過剰な安全率の上昇として表現され やすいといえます。配置する場合も計算上の考慮はしない方がよいでしょう。(この位置はのり面の中間にある場合などでは上下のすべりを分離する重要なポイントでもあり、この位置での鉄筋の配置そのものを やめた方が)


 また経済性などの理由から、斜面上部などの補強材の配置を省く場合は、上部の斜面の十分な安全性を確保する必要があります。経済性を求めすぎると、すべり深度の薄い斜面下部に補強材が集中するケースが見られます。特に保全対象が斜面の上部にある場合は上を重点として配置すべきであり、そのための理論武装としてもこの検討は役に立つことがあります。


 

(2) 配置間隔、配置密度
 現状では詳細な検討なしで1本/2m2で補強材を配置しているケースもあります。いわゆる「経験的手法」です。これを使って良いと明確に書かれているのは「切土補強土工法設計・施工要領 」であり、これは高速道路のり面でかつ軽微な崩壊のみへの適用が認められているだけです。通常は効果的な配置を目指すべきであります。

 切土補強土工法設計・施工要領では、補強材打設間隔は、1.0~1.5mとしていますが、十分な付着のとれる岩などに定着し、のり枠工など比較的中抜けの発生しにくい堅固なのり面工を併用する場合は、2.0mまで飛ばして良いともしています。事実、配置間隔が とんだために破壊した事例はあまりなく、最近は2.0mまでを上限として検討することが多くなっています。

 特に十分な付着のとれる岩などに定着し、のり枠工、コンクリート張工などの堅固なのり面工を併用する場合は、1.0~2.0mの間で経済的な配置を検討する必要があります。不動層として風化岩以上の岩盤やN値の高い硬質な地盤が存在する場合、一般的にはピッチが大きい方が経済的となります。

 また実際の検討では枠間隔の他、補強材の削孔径や長さなども経済性の対象となります。主な比較項目は以下の通りです。

主な比較項目
○補強材の材料
○補強材の長さ
○補強材の配置(水平打設間隔、1断面当たりの設置段数)
○補強材の削孔径

 

(3) 補強材の打設角度
 補強材の打設角度は、基本的には水平面から-10゜~-45゜で設計します。アンカー工と同じです。

 理由は注入効率のことを考え、0~-10゜は避けた方がよいからです。しかしもともとトンネルのNATM工法から来ているので0~-10゜や上向きが施工できないと いうわけではないですが、施工に注意が必要なことは事実です。斜面補強においてあえて計画する必要はないでしょう。

 また削孔角度を変えると補強効果が変わるため経済性が変わります。上記の配置と同様に打設傾角での経済比較をすべき、という意見もありますが、自然斜面にも適用し、また表層付近の補強であることから工法の本質としてはのり面に垂直方向の打設で考えたいものですが、それを踏まえて以下の扱いが妥当でしょう。 

①施工本数が多く、安定性、経済性を第1に重視した方がよい現場では、すべり面の垂線と補強材のなす角度θ=30゜~40゜を標準とし、地山の土性を考慮し十分な検討を行う。

②施工性を第1に重視した方がよい現場では、のり面に垂直方向の打設角度で設計する。

※のり枠工を反力板として使用する場合は、箱抜きの存在を含め、のり枠工の配筋が可能か否かを考慮する必要がある。

(4) 補強材と削孔径
 異形棒鋼を用いる場合はD19~D25、削孔径φ65~90mmを標準としています。その他新技術を用いる場合は各技術要領などによっています。補強材の材料に関してはプレストレスもないため、アンカー工ほど厳格に規定されていません。

 次に削孔径ですが、設計の段階で注意を要する決定項目です。削孔径を計画する場合、施工できなければ話になりません。

 重要ポイントとして、先ず孔壁が自立するか否かが問題となります。自立しない場合はφ90mmが前提となり、自立する場合は削孔方法、削孔長などによって、削孔径が変わります。孔壁が自立し、その他条件でもφ65mmの施工が可能な場合は、市場単価の適用が可能であるため、φ90mmよりもかなり経済的な計画となるケースが多いのです。

 一方τ値により経済性が逆になるケースもあります。τ値が小さく、削孔φ65mmが可能であってもその径では周面摩擦抵抗力が足りず、削孔φ90mmとした方が効率的な計画となるケースもあります。この辺のイメージはアンカー工の設計と同じです。

 従ってφ65mm、φ90mm両方につき新工法などを含めて検討をするほうが良いでしょう。特に不動層として風化岩やN値の高い硬質な地盤が存在する場合、一般的にはピッチをとばし芯材強度の大きい材料を用いた方が経済的となります。

※現場でのトラブル:市場単価の使用条件に注意
 市場単価の適用には適用条件には明確な制限があります。適用条件外の採用をした場合、現場トラブルとなりやすいので注意が必要です!!

(5)補強材長
 補強材長さは、施工性と経済性を十分に検討の上決定しなければならない項目です。一般的に、補強材長さは2.0~5.0mとされていますが、削孔可能ならそれ以上の実績もあります。

 補強材の長さに上限を設ける工学的な根拠は無いとされており、現実的にはドリルタイプの削孔機で削孔可能な長さが補強材の最大長となっています。そのため削孔方法や材料の強度などを考慮すると2.0m~5.0mで考えるのが一般とされているのです。しかしそれらの基準が書かれたのはもう10年以上前の話であり、最近では高性能ドリフタや長いガイドセルを使うことで近年7m程度の長尺削孔も可能となってきています。新工法などで強度の高い材料を使用する場合などは、特に長尺についても検討する必要があります。

 また切土補強土工法設計・施工要領では1断面での補強材長さを変化させないのが一般的であるとしていますが、流れ盤のすべり やすべり位置が特定されている場合等は補強材長さを変化させる場合があるともしています。これらは高速道路ののり面であり、重要度が高く、施工規模が大きいことが根底となっています。

 現場によりすべり面の位置や形状に合わせ、また施工規模や施工性にも配慮し、効率的な長さを決定するのが良いでしょう。

 特に1段1段の長さを変える時など根入れ長については詳細な見極めが必要となります。下表は実際の検討例ですが、各補強材の補強強度が鋼材強度(Tsa)で決まっているにもかかわらず、T2paが大きすぎ、不動土塊内の付着長が過大となっています。設計スタンスにもよりますが、計算上の無駄は省けます。このような場合は根入れ長を短くしても計算上の安全性は同一なのです。

 

補強材の許容補強材力

(1) 許容補強材力
 地山補強土工法の設計の基本です。補強材の挿入によって安定度が上がるメカニズム、これは口頭ですらすら説明できなくてはなりません。

 補強材の許容補強材力Tpaは、補強材が移動土塊から受ける許容引抜き抵抗力T1pa、不動地山から受ける許容引抜き抵抗力T2paおよび補強材の許容引張り力Tsaのうち最小のものを用います。3者のうち最弱部で破壊するという考えです。

 この計算方法は基本です。ただし移動土塊が極めて薄いような現場では、T1paが極端に小さくなる場合があります。このような設計計算ではこの補強鉄筋に抑止力はほとんどないことになってしまいます。このような場合には、「切土補強土工法設計・施工要領」で書かれている「吹付枠工相当以上ののり面工を用いた場合にはT1paの検討を無視しても良い」を参考とします。プレストレスはないですが、アンカーのようなイメージで設計するのです。この場合はT2paとTsaのうち弱い抵抗値で設計することができるのです。

 ただし、この設計法はT1paが受け持っていた分をのり面工に全部受け持たせる、ということですので、「吹付枠工相当以上」ではないのり面工を用いる場合(特に2次製品の反力板が多いですが)、メーカーに資料があることが多く、問い合わせをするのがよいでしょう。


(2) 腐食代
 またもうひとつ誤りが多いのが、腐食しろの問題です。「切土補強土工法設計・施工要領」では、以下のように示しています。

 永久目的で使用する場合は腐食代1mmを鉄筋公称径に対して考慮する。

 亜鉛メッキによる防食が前提となっています。過去の会計検査では亜鉛メッキが施されていない現場は設計過小とされた事例もあり。設計においてはメッキして更に1mmの腐食代を考慮することがよいでしょう。

 したがって永久目的で使用する場合は、次式で計算する必要があるのです。

補強材径=鉄筋公称径-1.0mm

 

経験的設計法のチェックをしてみました

先日ある発注者から、「予算がないから経験的手法で・・・」といわれました。「ん!?」と思いました。それが本当なら全て経験的手法で行っても良いことになります。そういえば確認したことがなかったので、この際・・と思い検証した事例を紹介します。

 事例として、風化岩の分布斜面に置いて1:1.0勾配で切ったところ表層が緩み、切土補強土工法にて補強するケースを考えます。
 先ずは自立する地山の表層崩壊に対する対策であったので「経験的設計法」で計画してみました。10m当たりの工事費は約400万円でした。


一方きちんとすべり解析をし、最も効率的な鉄筋配置や長さとした場合の工事費は、230万円でした。



 以上のように、詳細な解析をした方が合理的な設計計画が可能な場合の方が多いのです。したがって基本的には詳細な検討を行う方が望ましいといえます。詳細な検討といっても、市販のソフトを使えば簡単にできるのですから・・・。